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施設取材レポート

「一期一会」の理念を胸に子どもの心のケアに注力

 神経発達症の診療と子どもの心のケアを提供している虹の子どもクリニック(広島県東広島市)。個性ある子どもたちがそれぞれの色で輝き、羽ばたいていけるようサポートしたい。クリニックの名前には、そのような願いが込められているとのことです。子どもの睡眠障害に対する取り組みなど、同クリニックにおける神経発達症の診療について、院長の河野(こうの)政樹先生と療育部長(言語聴覚士)、同クリニック関連会社社員の皆さんにお話を伺いました。(取材日:2022年9月5日、23日)
左から笠井氏、河野先生、下妻先生
お話を伺った方々
  • 河野 政樹 先生(院長)
  • 下妻 玄典 先生(療育部長、言語聴覚士)
  • 笠井 美香 氏(株式会社光の虹 営業管理部長)
医師による治療とリハビリの二本柱で神経発達症の子どもを診療
河野 政樹 先生(院長)
子どもが診察室にとどまってくれる工夫を随所に

 私は長年、病院の小児科外来、障害者療育支援センターで小児・思春期の神経発達症と心のケアを専門に、子どもと向き合ってきました。当初は不登校や摂食障害の子どもの診療が中心でしたが、20年ほど前から神経発達症の子どもを診る機会が多くなりました。しかし当時は広島県内に専門のクリニックがほとんどなく、初診まで1年以上かかるケースも少なくなかったため、このような状況を何とか打破したいという思いが募り、開業を決意しました。

 当クリニックにおける神経発達症の子どもの診療には、私を含めて児童精神科・小児科医2人、てんかん専門の小児科医1人(非常勤)、言語聴覚士2人、作業療法士3人などが携わっています。診察は完全予約制で、ウェブ予約受付システムを導入しています。初診は予約の際に送信してもらった問診票を参照しながら35分ほどかけて行い、必要と判断した子どもに対しては作業療法士、言語聴覚士に検査の指示を出します。検査のために3〜4回通院してもらった後、医師とスタッフでカンファレンスを開催して治療方針を決定し、個別のリハビリテーション(リハビリ)や支援へとつなげます(図1)。

図1. 虹の子どもクリニックにおける診療の流れ
(虹の子どもクリニックホームページを基に作成)

 なお、私の診察室には熱帯魚水槽を置いています。これは、じっとしているのが苦手な神経発達症の子どもに診察室にとどまってもらうための工夫です。魚が好きな子どもは多く、たいていは水槽に釘付けになってくれます。また、横になりたがる子どももいるので、いつでも寝転がることができるソファベッドを置いています。診察机などの調度品も、家庭的な雰囲気を感じてもらえるよう木製の温かみのあるものを選びました(写真)。

写真. 虹の子どもクリニック・河野先生の診察室
(左上)魚たちも優秀な職員。子どもたちがはしゃいで水槽をたたいてもひるまず、遊泳する姿を見せてくれます。
(左下)診察中に寝転がりたくなった子どもには、気軽にごろんとしてもらっています(河野先生)

 当クリニックの基本理念は「一期一会」です。出会いは偶然ではなく必然であり、その時々を大切に、今伝えるべきことを伝える尊さをスタッフ全員が意識しながら、子どもや家族と関わっています。診療の基本方針は「褒める 認める 大事にする」です。クリニックを受診した子どもが褒められ、認められ、大事にされる環境をつくっていくことも、私たちの重要な使命であると考えています。

睡眠リズムを整えることが「幸せとは何か」の気づきをもたらす

 神経発達症の子どもは、診断されない限り福祉的・教育的支援などが受けられません。こうした現状において、自分の子どもを「グレーゾーン」と言われ、途方に暮れた末に当クリニックを訪れる保護者が大勢います。さまざまな支援が得られるよう道筋をつけることが、私たちの責任だと痛感しています。

 また、神経発達症の子どもを診る上で教育機関との連携は不可欠ですが、情報を漏れなく一元的に共有することが最適な支援に結びつくと考え、当クリニックでは診察の際、学校の教員や保育士などに同席してもらうことがあります。福祉制度については、保護者にパンフレットを渡して市役所での相談を促すことに加え、自立支援医療や各種手当、手帳の交付のための診断書を作成しています。診断書には多くの項目を記載しなければなりませんが、ホームページ上であらかじめ保護者が子どもの情報を入力できるシステムを導入し、スムーズに作成できるよう工夫しています。

 神経発達症の子どもでは睡眠障害を合併する例があり、当クリニックでもなんらかの睡眠の問題を抱える子どもが少なくありません。最近は、一日中スマートフォンのゲームに熱中するなどインターネット依存の状態となり、バーチャルな世界に浸る子どもが多いようです。しかし、睡眠や生活のリズムを整えてインターネットに触れる時間を短縮できれば、おのずと現実(リアル)で過ごす時間が増えます。そうすると、それまで家族で外出する機会が少なかった保護者にも変化が生じ、子どもをキャンプや釣りといったアウトドアに誘うようになるかもしれません。

 このようにリアルな生活が充実する中で、家族の幸せとは何かを自ら気づいていくプロセスは素晴らしい体験だと思います。「一期一会」の理念を念頭に、今後も1人1人の子どもの現実感(リアリティ)を高めていけるような支援を続けていきたいと考えています。

作業療法士と言語聴覚士が共同してリハビリを実施
下妻 玄典 先生(療育部長、言語聴覚士)
それぞれの子どもに合ったリハビリで成長を後押し

 当クリニックのリハビリは作業療法士と言語聴覚士が明確に役割分担せず、互いに専門性を発揮しながら共同で行っている点に特徴があります。リハビリにおいて私たちが特に重視しているのは、事前に行う評価です。例えば、漢字を書けずに困っている子どもにリハビリを実施する場合、まず原因を明らかにしなければ適切な診療方針を立てることはできません。

 評価の結果、鉛筆を持つこと自体が難しいのであれば、作業療法士が持ち方を指導したり、手指の巧緻性訓練を行ったりします。また、鉛筆そのものに工夫を施すこともあります。一方、漢字が覚えられない、あるいは覚えてはいるもののいざとなったら書けないようなケースでは、言語聴覚士が対応します。何回挑戦しても「休」という字が書けない子どもには、「『にんべん』と『木』で『休む』だね」といった具合に教えるとスムーズに書けるようになることがあります。このように、それぞれの子どもの個性に適した覚え方を見つけ出すのが言語聴覚士の役割です。

 最近、生活リズムの乱れなどから、十分な睡眠が取れていない子どもが増えているように感じます。そういう子どもは日中しっかり体を動かせていないことが多いので、作業療法の一環として当クリニックのトランポリンやボールプール、ブランコなどで遊んで帰ってもらうようにしています。心地良い疲れを経験することで、夜ぐっすり眠れるようになればと期待しています。

「来てくれてありがとう」―子どもだけでなく保護者も褒める

 神経発達症の子どもは生活や学習で失敗を積み重ね、中には褒められた経験が全くないという子どももいます。そのため、私は「当クリニックで過ごしている間は、できるだけ楽しい雰囲気の中で成功体験を積み重ねてほしい」と願いながら子どもたちと関わっています。「僕はやればできるんだ」と実感してもらえるよう、リハビリが少しでもうまくできたら褒めるよう心がけています。

 一方、保護者の中には子どもを褒める重要性を理解していながら、気持ちに余裕がなく叱ってばかりだと悩んでいる方も少なくありません。そういうケースでは、子どもより先に保護者を褒めるようにしています。例えば、「忙しい中、よくお子さんを連れて来てくれましたね」などと感謝の気持ちを伝えます。育児に自信を失っている保護者に対しては、子どもが「こんにちは」と大きい声で言ってくれたら、「きちんと挨拶できる子どもに育ててくれて、ありがとう」と伝えるようにしています。

 神経発達症の子どもに対する支援においては、クリニック内での診療だけでなく、関係各所との連携も不可欠です。私は広島県教育委員会から委嘱された巡回相談員として近隣の小学校を訪問していますが、地域との連携はまだ十分でないと感じます。今後は家庭とわれわれ療育者、そして学校・保育所など、子どもが過ごす場所全てをより有機的に連合できるような仕組みをつくっていきたいと考えています。

神経発達症の子どもとのコミュニケーションを追求
笠井 美香 氏(株式会社光の虹 営業管理部長)
コミュニケーションに悩む教師や保護者への啓発活動を展開

 私は2020年から、クリニックと同じ建物内にあり、河野先生が代表を務められている株式会社光の虹に勤務しています。それまでの30年間は小学校の教諭を務めていたのですが、次第に学級の落ち着きのなさを感じる機会が増えてきました。解決策を模索する中で河野先生に出会い、神経発達症についての理解を深めてきました。自分のこれまでの経験と学んだことを生かし、子どもたちとのコミュニケーションに悩む教師や保護者の力になりたいと考え、現在に至ります。

 神経発達症の子どもとより良く関わるためには、知識の習得とコミュニケーション力の向上が欠かせません(図2)。当社は、虹の子どもクリニックや同じ敷地内に事務局を置く一般社団法人日本医療福祉教育コミュニケーション協会(AMWEC)と連携し、各種コミュニケーションセミナーやオンラインサロンを開催しています。

図2. 神経発達症の子どもとより良く関わるために必要な二大柱
(笠井美香氏提供資料を基に作成)

 セミナーは神経発達症の知識やコミュニケーションについて学ぶ座学編と、コミュニケーションスキルの向上を目指す実践編で構成されます。参加者は神経発達症の子どもを持つ保護者、教師、医師、福祉事業所の職員などさまざまです。そのため、セミナーでは保護者や教師に対し、「子どもとのより良いコミュニケーション」や「児童に穏やかに接することができるスキルの向上」を心がけて進めています。

 新型コロナウイルス感染症の流行により対面でのセミナーが難しくなりましたが、神経発達症に関する最新情報の発信と、子どもとの関わり方に悩む人たちへのアドバイスを続けたいとの思いから、オンラインサロンを立ち上げました。会員(有料)になると河野先生にいつでも気軽に質問できる他、特別支援教育の専門家が加わったライブ配信の事例検討会を視聴することも可能です。

ゲームの代わりにけん玉やゴム跳びを提案

 私の業務の1つに、オンラインサロンに寄せられた質問の取りまとめがあります。河野先生がすぐに答えられるようなものは、2~3分の動画にまとめて速やかにソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などで発信しています。一方、掘り下げて考察などを加えた上で答えた方がよいと思われた質問については、事例検討会で取り上げるようにしています。河野先生は深刻な質問に対しても、プラス思考で楽しく前向きに取り組めるようなアドバイスを送っています。

 最近、夜遅くまでスマートフォンのゲームに熱中し、朝起きられない子どもについての相談が増えている印象です。河野先生はそのような相談に対し、「生活リズムを整える出発点は朝。まずは朝起きる時間を決めましょう」といった提案をします。その他、ゲームの代わりにけん玉やゴム跳びなどを試してもらい、「ゲームより楽しい!」という感覚を体験してもらうよう促しています。

 今後、勉強が苦手な子どもが少しでも勉強したいという気持ちになる、塾のような場所をつくりたいと思っています。神経発達症の有無にかかわらず、全ての子どもたちを幸せにする世の中をつくりたい-。これが、私の大きな夢です。

施設概要
虹の子どもクリニック
〒739-0041 広島県東広島市西条町寺家5022-1
©Nobelpharma Co., Ltd. all rights reserved.
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